「パ・ド・ドゥ ウロボロス」



TOPへ戻るの R・うぃっちぃ〜ずTOPへ あ、キャラ紹介読んどこうかな

  普段は展示会などが行われる小規模イベント会場、都市部の外れに良く見られる
寂れてリーズナブルな“箱”は、その日、いつもと違う熱気に包まれていた。
 駐車場に置かれた手製の看板には、「満員御礼」の札が掲げられており
その下から派手な水着姿の女性が幾人か写ったポスターが垣間見える。
人目を引く中央部には、きらびやかで美しいが、何処か危険な匂いが漂う
二人の女性。間に基本フォントで慎ましく「vs」の文字が入っていた・・・。
 
 ややおさえ気味な照明が、白とブルーで彩られたリングを柔らかく照らし出す。
選手がリングインした後も場内のざわめきは収まる事無く、メインイベントとして
行われる一戦への、観客の期待感の高さを物語っている。
レフリーを挟んで、これから激突する筈の二人は四方に薄黒い影を落としていた。
 リングアナの独特なコールがマイクを通じて声高に響く。
「青コーナー、130パウンドォ バイパー佐久間ぁ!」
 青コーナーに居る選手は、客席の歓声に答える事もせず、ただ対戦相手を睨みつけている。
蒼み掛かった印象を見せる黒のロングヘアー。顔には稲妻をモチーフにしたペイント。
ボンデージファッションを意識した黒いコスチュームが鈍い光沢を放ち、均整の
とれた肢体と張りの有る大きな胸を、きつく包み込んでいる。美形の整った顔立ちを
引き締める険の有る表情と、ハイライトが浮ぶリングウェアは見事に調和し、妖しい魅力を
振りまいていた。
 リングアナは客席から投げ込まれる青い紙テープが途切れるのを待たず、再びコールした。
「赤コーナー・135パウンドォ バンシー・サマーラァ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 客席から赤い紙テープが飛び、一際大きな歓声が響く。
赤コーナーの選手は、それに答えて優雅に腕を振り上げた。
 同じヘビー級の佐久間と然程変わらない身長だが、ボディはより肉厚で重厚にみえる。
グラマラスな体を包み込むハイレグカットのリングコスチュームは深紅に染め抜かれ
ライトの中、艶やかに照り返した。
 バンシー・サマラと呼ばれた選手は、ウエーブのかかった豪奢な金髪を
たなびかせながら、青コーナーに向って数歩踏み出すと視線を外さないまま腕を振り下ろす。
反動で、むっちりとボリュームの有る胸が、重みの有る揺れ方をした。
彼女の全身から醸し出された雰囲気は、ベルトなど巻かれていなくとも、チャンピオンと
しての風格を十二分に物語っている。正に、女帝という言葉が相応しい。
ただ、美しい顔に浮び上がる表情は、対戦相手と同質の“鋭い何か”を感じさせた。

 紙テープが片付けられる中、ビデオ用の収録が行われている実況席では、ヘッドマイク
を右手で押えた男が熱弁を揮っている。

「さぁ、遂に直接対決の時がやってまいりました。バイパー佐久間対バンシー・サマラの
時間無制限一本勝負!日米ヒール王座決定戦、ある意味究極の同キャラ対決が
今晩実現しました。解説は御馴染み不機嫌女王、榛名マナさんです。
マナさん、どうですか?」

 答えようの無い中途半端な振りをされた女性解説者は、いつも崩す事が無い
不機嫌な表情のまま、ぶっきらぼうに答えた。

「同じタイプのレスラーじゃ、ない」

「とはいえ今回の一戦は、佐久間が言い出して実現したものですからねぇ。
どちらも毒蛇で形容される事が多いレスラー、更にラフなヒールファイターと
どうにも比較される事が多い二人ですから。名前の響きまでソックリと来れば
イメージで売るレスラーにとっては、コレはもう大変な事ですよ。
付け加えるならば、一方は現団体のTOPヒール、もう一方は団体が休業
したとはいえ、全米で興行をうっていたメジャー団体のチャンピオン。
ベルト自体も個人所有のまま、タイトル戦開催が可能とくれば、ここで佐久間が
勝つ事によって、日本での米メジャータイトル戦実現の夢が見えてくる訳ですよ!」

 手馴れた調子で視聴者への説明をする実況に、解説はボソリと呟く。

「…ベルトは持ったレスラーによって価値が高められるのは事実。でも、タイトル戦の
日本開催はナンセンス。お客さんが納得しないでしょ」

「そうかもしれませんが、我々見ている者にとってはこう、色々と膨らんで
いく訳ですよ。では、二人の本日の対決に絞って、どうです?」

「ま、過去の因縁は試合を引き締めるし」

 解説の呟きを耳敏く聞き付けた実況が、仏頂面の彼女に目をやった。

「おおっと、恒例のマナさんの一言、謎が謎呼ぶ殺人事件ならぬ謎掛けが
ほとばしる。その辺りに注意しつつ、今日の試合を見ていきたいと思います。
さぁ、そろそろゴングです!」

 ようやく紙テープが片付けられたリング上では、レフリーによる選手への
ボディチェックと注意が入念に行われていた。ラフファイト、特に反則気味の
パンチを平然と繰り出す二人故に、「ノー・パンチ」の一言に力がこもる。
両選手ともレフリーを無視したまま、チェックの間も互いに相手への視線を外さない。
静かなリング上は、底にたぎる熱いマグマを覆い隠したまま、ゴングが鳴る瞬間を
待ち構えていた。

 胸を突き合せたまま微動だにしなかった2匹の牝豹を、レフリーが苦心して
コーナーに分ける。即座に、鋭い金属音が響いた。

――― カーン!―――

 一瞬前の高まりが嘘の様に、二人はゆったりと中央に歩み寄る。
 牽制もせず、互いに軽いフットワークのみ。やがて、サマラの右手が頭上に掲げられた。
挑発するかのような指のひらめきが、佐久間へ力比べをアピールしている。

「カモン!ベイビーッ」

―― チッ!

舌打ちした佐久間の左手がじわじわ持ちあがり、サマラの右手とゆっくり絡み合う。
 もう一方の手がガッチリ組み合った瞬間、地下でたぎっていたマグマが噴火したように
力強い声を上げて、意地の張合いが始まった。左右に腕が開き、互いの胸を
押し当てての力比べ。組み合った震える腕が、力の入り具合を想像させる。
 均衡は直ぐに崩れた。全米チャンプのしなやかな二の腕は、今、強靭な
存在感を露わにし、佐久間の手をぐいぐいと押し込んでいる。
 余裕に満ちたサマラの笑みがもれた。

「ヘイ、お嬢ちゃん、それで本気なの?」

――ギリッ 「クッ…ちぃっ!」

 力負けした佐久間の両膝はリングに落ち、力比べでの敗北を満場に知らせていた。
痛みの所為か悔しさからか、佐久間の口から歯軋りとも唸りとも付かない声が上がった。
 サマラは観衆を見渡し、勝ち誇った表情でアピールする。ドンッとリングを
踏みしめる様にして手を解くと、佐久間の背中にハンマーブローを振り下ろした。

だんっ!―どすっ―ドスンッ!

「うぐっ」

2発、3発と重い音を立てて、肉のハンマーが背中を貫く。強烈な衝撃に
佐久間は、土下座の様な体勢に成ってしまった。

「ふんっ!」

 サマラはその背中にまたがると、佐久間の顎を両手で抱えて、天上目掛けて捻り上げる。

「力比べはサマラの圧勝。更にチンロックで佐久間の頚椎を責め立てて行きます」

 実況が響く中、サマラのパワーは佐久間をぐいぐい追い込んだ。

「さ、ジャパニーズ忍耐ってやつを見せてみな!」

「くぅぅ・・・あぐぁぁぁ・・・」

「佐久間、ギブ?ギブアップか?」

「ぐ・・ノォ・・・」

レフリーの問い掛けを否定しつつも、佐久間は痛みを堪えるのに精一杯になっていた。
力任せのストレッチが、彼女の首と背中を強烈に攻めたてる。

“さっ!”

 出し抜けに、サマラが顎を抱えていた手を外した。

「ノンノン!たったこれだけで終っちゃ、ギャラリーが可哀想でしょ」

――ドサッ!

 佐久間は前のめりにリングへと突っ伏した。
技を外されて安堵している自分に内心腹を立てつつ、頚椎の鈍痛に
歯を食いしばる。チンロック自体は単純な技だが、パワーに裏付けされたサマラが
繰り出すそれは繋ぎの痛め技程度でない、十二分なフィニッシュホールドと成り得た。

「決めろーサマラーっ!」

「HAY!」

 歓声に答える様に、サマラは大きなモーションを付けて、佐久間の背中に
ストンピングを繰り出す。体重が乗ったストンピングが叩き込まれる度、佐久間の
脚が反動で跳ね上がった。
蹴りの雨が止んでも、うつぶせのまま動かない佐久間を引き起こす。

「ネクスト・ステップッ!」

――ズドンッ!!

「はぅっ」

今度は高々と抱え上げボディスラムでマットに叩きつける。
サマラの、徹底した背中への攻撃は、確かな説得力を持って観客を魅了した。
 したたかに背中を打ちつけ、大の字に成っている佐久間に、深紅のボディが
覆い被さる。

「フォール!」

サマラが抱え込む様にフォールに行く。レフリーの掌が、マットを叩いた。
「1−2−」…3まで間がある内に、佐久間がキックアウトで返す。
 驚いた様子も無く、サマラは立ち上がった。

「OKOK!この位で終っちゃ、拍子抜けよ」

 一気呵成に攻めていたサマラの全身からは、汗がほとばしり、立ちあがる瞬間に
飛沫を上げる。佐久間も汗でマットを染めていたが、こちらは耐える事に必死の脂汗
だった。
 サマラは、佐久間の髪を掴んで引きずり起こすと、くびれた腰の辺りをしっかりと
ロックする。パワーボムの体勢に、観衆と実況からどよめきが起きた。

「おーっと、早くもデスレイス・ボムの体勢っ。佐久間に何もさせないまま
完全勝利で幕を引こうというのかぁ!?」

 サマラは、勢いを付けて佐久間の体を持ち上げると、マット目掛けて振り下ろそうとした。
だが、振り下ろす前にサマラの首に佐久間の足が巻きつき、体がバク転するように
捻られる。次の瞬間には、サマラの頭部が反動をつけてマットに叩き付けられていた。

「パワーボムをフランケンシュタイナーで切り返したぁっ サマラの
頭部がマットにのめり込んだぞぉ」

 実況の張り上げた声にかき消されながらも、解説の声が、心持ち大きめに響く。

「不意打ちは、受身の天敵」

 サマラは首を気にしながらも、直ぐに跳ね起きる。

「Shit!」

 小さく口走ると、佐久間目掛けて大股に歩み寄った。
ダメージの回復を優先させるより、相手に畳み掛ける方を優先したその行動は
パワーファイターで売っている彼女らしい選択だった。自ら繰り出した連続攻撃と、まともに受けた
不意打ちの切り返し技で多少呼吸を乱しながらも、それでも攻めを優先する。

「HA」――だんっ ――ダンッ 「あぐっ」
――どすっ! 「あぁーっ」

 ようやく膝立ちになった佐久間の下腹部に重いトーキックを叩きこむ。ニ撃、三撃目で
ハスキーな悲鳴と共に、もんどりうって佐久間が倒れた。

「ファイナルステージ ナゥ!」
「おおおおおおおっ!?」

 サマラは、佐久間のアクセントの有る長い髪を掴んで、観衆にアピールしながら
強引に引き起こす。だが、ふらつきながら立った佐久間の眼は、鋭い輝きを放っていた。

「単細胞…」
「…!?」

呟いた佐久間の足が大きく踏み込み、その手が素早く閃く。

「はぁっ」――ザグッ!

「ゲホッ」

 ハッという佐久間の掛け声と、サマラの咳き込む声が同時に響いた。
無防備なサマラの喉元に、佐久間の抜き手が突き刺さる。地獄突きだ。
 サマラが喉を押さえ、前かがみになる。佐久間はヘッドロックの様にサマラの
頭を抱えると、掛け声と共に再び地獄突きを叩き込んだ。反動で後ずさり
大きく傾く金髪を掴まえ、三発目を叩き込むと、サマラはもんどりうって
コーナーポストに持たれかかる。鍛えようの無い喉への一撃は、形勢を一変させた。
 トップロープにもたれ掛かったサマラに近付くと、佐久間は何処か陰惨な雰囲気
を感じさせる猫なで声を掛けた。

「もう息切れしたの?相変らず突貫バカねー、こっちがセールで受けてたら、スタミナ
お構いなしに延々技を繰り出すんだから。
そんなんだから、あの頃“ハイスパートな子ブタちゃん”って呼ばれたのよ」

金髪越しにサマラの頬を張る。

「それじゃ、ココからは目一杯、客にあたしの技を楽しんで貰うわよ」

 佐久間は、どよめく観客に握り拳を見せてアピールした。

「さぁ、ドミネートショーの始まりだよ!」

バスッ――ボクンッ!――バスンッ!――バスッ・・・・

「うおぉぉぉぉっえげつねーぞっ佐久間ぁ!!」 「どーしたぁサマラァ!もうガス欠かよぉ!」

 サマラのしっかりしたボディ目掛けて鋭いパンチが叩き込まれる。

「ハッ!結構良い音するじゃないっ」 ――サディステックな笑み。

「タプタプ成りだけデカイ乳と一緒で、無駄な肉付いてる証拠よねっ!」

じゃれるように打上げたアッパーで、張りの有る胸を跳ね上げる。

「AH!」 ――ブルンッ

たぷんっ と、独特の反動を残して、左胸が大きく揺れた。

右、右、左と一発一発確かめる様に打ち込まれるフック気味のラフパンチは、サマラの
鳩尾とレバーに狙い澄ましたように吸い込まれた。
 えぐり込むような一撃の度、サマラの口から「OH!」という悲鳴が響き、反動で
胸が更に大きく波打つ。

「ブレイク、反則だぞ佐久間っ!」

「反則?ファンサービスの間違いでしょ?」

 レフリーの制止を無視して、更に連打が続く。反則カウントを二回聞いて
佐久間のパンチが漸く止まった。サマラは、両腕がトップロープに
引っ掛かったまま、がっくりとうなだれて荒い息をしている。振り乱した髪が
金色のベールを作り、顔を覆ってた。

「どーしたの?子ブタちゃん、お遊戯の時間は終ってないわよ」

 舌なめずりしながら、佐久間はサマラの髪を鷲掴みにしてリング中央に引きずる。

「ほらほら、あんまり早く終っちゃうと、お客さんが可哀想なんでしょ」

両腕で腹を抱えたサマラをバックブリーカーの要領で豪快に持ち上げた。

「あたしの技のキレを、楽しんでもらわないとね!」

肉厚なボディを弧を描くように大きく振り下げ、締まった下腹を自分の膝の上に叩きつける。

――ズンッ!

容赦無いストマッククラッシャーがサマラを貫いた。

「あぐっ」

 空気が漏れるような悲鳴とも形容しがたい声をサマラは上げる。マットに落ちると
体をくの字に曲げのたうった。

 佐久間は、悶え苦しむサマラを足先で強引に仰向けにすると、立ったまま喉元を
リングシューズで踏みつける。

「レフリー、フォール」

「ワンッ、ツーッ!・・・」

「おぉーーーーー!!」 「サマラ立ってぇ〜!」

「?!」

 カウント2.5で、サマラは必死に体をよじってかわす。

「いいの?まだ続けちゃって。それじゃ・・・」

佐久間は場内を見渡すと歓声に負けない声で叫んだ。

「極めるぞー!」

 ハスキーボイス気味な佐久間の絶叫に、観衆の盛上りは最高潮に達する。

「バイパーっ落せよー」 「チャンプに引導渡してやれー」

未だ倒れたままのサマラを引き起こすと、素早く絡み付く。

「ええーーーーー!?」

潮騒のように、観衆から疑問符付きのどよめきが起こった。

 「なんとぉ、フィニッシュ宣言の後にコブラツイストぉ?同じコブラでも
普段ならコブラホールドとバナナスプレッドの複合技、アナコンダ・デスロックか
変形チキンウイングフェイスロックことバイパークラッチに持っていくのが
常套なのですが、これは一体どう言う事ですか?マナさん」

 解説は淡々と答えた。

「・・・要は蛇がらみの手持ち技総てを極めた上で勝つ、と」
「という事は、この後も地獄のグラウンドフルコースが待っていると?」
「多分」

実況は驚きの眼差しでリング上を見つめた。
 佐久間のコブラツイストは、サマラへがっちり絡み付き、ミシミシと絞め上げている。

「ベルト持ってる小ブタちゃん、ギブアップして楽に成ったら?」

佐久間の囁きが、巧妙にサマラのプライドを突く。

「サマラ、ギブ?ギブか?」
「NO!」

 レフリーの問い掛けに、しっかりと答えるサマラを、愉悦に浸った目でみやる。

「アラアラ、無駄に元気みたいね。それじゃ、まだ楽しませてもらうわよ」

「せいっ!」

みしっ――ゆさっゆさっ―――ギリギリギリッ!

「あっ・・AHH!」

 タップリと揺さ振ってダメージを与えた後で、サマラに掛けていたロックを解く。
佐久間は仁王立ちで、ゆっくりと、うつ伏せに崩れ落ちる獲物を見つめた。

「仕上げだよっ! あたしの小ブタ料理をしっかり見届けな!」

どよめく観衆にアピールしながら自らサマラの傍にしゃがみ込む。
力無く投げ出された左腕を取り、上半身を引き起こす。サマラの喉元に
右腕を絡み付けると、サマラの悲鳴が場内にこだました。

「AHHHHHH!NO!」

「バイパークラッチィッ!佐久間の必殺技の一つが極まったぁっ。だが、しかし
両腕のフックが出来ていません。」
「・・・わざと」
「わざとですか?」
「弄ぶ為に」

 不機嫌そうな解説の瞳に、“やれやれ”といった、諦めに似た色が滲み出た。

「それが甘い、っていうのに・・・」

C:\My Documents\awwf\a007.jpg

 佐久間は、魚の引きを楽しむ釣り人のように、サマラの抵抗を楽しんでいる。

「そうそう、頑張らないとあたしの両手がフックされて、今直ぐオチちゃうわよ。
いいのかなぁ?ベルト持ってる小ブタちゃんが、あっさりオトされても」

 レフリーのチェックを巧妙にかいくぐり、チョーク気味に極まっている
スリーパーは徐々に絞めこまれ、サマラのスタミナをみるみる奪っていく。
先程まで強烈に感じていたサマラの抵抗する力が弱まっていったのを、佐久間は
全身で感じ取っていた。届いていなかった両手は、今にもフックできそうな
位に成っている。

わざとらしい響きを込めた佐久間の声が、楽しげにこだます。

「やだぁ、まだオチないでよ小ブタちゃん。悪いへびさんのメインディッシュは次なのよ」

そう言うと、サマラの腕と首を絞め上げていた両手を振り解く。

――どさっ

 音を立てて崩れ落ちたサマラが、大量の脂汗で、マットをじっとりと染め上げた。
佐久間は、自分の肩口を流れ落ちる熱い汗を舌で一舐めする。

「最後までタップリ楽しませて頂戴ね、小ブタちゃん」

 大蛇が、捕らえた獲物に絡み付くような、ゆっくりとした動きで、必殺技である
アナコンダ・デスロックを極めていく。

「アナコンダが獲物を捕らえた時、先ずは獲物にみっちり巻きつくの」

「あっ」

ラメの光沢を放つ、ブラックのロングシューズが、ストッキングのフトモモに巻きつき、きつく締め上げる。

「ほぉら、もうお手々は動けないわよぉ」

サマラの腕を掴み、その腕をサマラ自身の首へ巻きつける様に持ちこむ。

「くっ!放・・・」

弱々しく抵抗するサマラをねじ伏せ、完全な形で
がっちりと技を決めた。

「最後…獲物を飲みこむ前に、背骨をへし折って窒息させるのよ…」

喉元に巻き付いた腕が力を込めて引き絞られる。

「こんな風にねっ!」

「AHH…っあぁぁぁっ!」

「あーっと、リング中央でアナコンダ・デスロックが完全に極まってしまったぁっ
今日の獲物は、全米チャンピオン。最高に豊潤な獲物を味わうべく、大蛇ががっちり
咥え込んで飲み込み始めたぁ!蝮対コブラの対決は、コブラを絡め取った
蝮に凱歌が上がってしまうのかっ!」

「おおおおおおおっ!」 「落せっ!」「オトせっ!」

C:\My Documents\awwf\a008.jpg

 サマラの体は、コブラクラッチの要領で首元を極められ、左足に絡みついた佐久間の
両足が力を増す度、捻り上げられ、全身が引き裂かれるようなダメージを味わっていく。
押し殺した悲鳴が漏れるのを、佐久間は満足げな笑みを浮かべて聞いていた。
 全力での攻めは彼女のスタミナを消耗させていたものの、勝利を確信した
佐久間にとっては、心地良く充実した疲労感に感じられている。
 獲物を捕らえた蝮の、悦に浸った囁きが響いた。

「活きの良い小ブタちゃんは、よーく筋を伸ばして、美味しく味わって頂かないとね」

サマラの喘ぐようなくぐもった声が、途切れ途切れに佐久間の耳を掠めた。

「…島国の…チャチな蛇が絡まっても、うっとお・・しいだけ・・よ」

 子供をあやすようだった佐久間の声が、半瞬後鋭い棘を帯びた物に変わる。

「ハッ!?潰れた団体のベルトを未練がましく持った奴がよく言うよ。
大体、アンタはあたしに勝った事なんて無いじゃない?!」

「・・・全米チャンプが、勝った事が無い?」

 実況は驚いた顔で、ぼそぼそと説明を始めた解説に振り向いた。

「そ、佐久間はルーキー時代、結構長い間アメリカマットで修行を積んでた。
それが例の潰れた団体。その団体のニューフェイスだったサマラとは、何度か
戦って、負け無しだった。レスラーとしての食い合わせの問題。多少グラウンドが
得意な佐久間と、グラウンドの攻めが苦手だったサマラでは仕方なし。
たまたまタッグチームが足りなかった所為で、二人はタッグを組む事に成った。
タッグ名がビッグバイパーズ。二人のリングネームが今の物に決ったのは
その時。ある意味、二人の出発点。組んでからは、かなり上手く回ったみたい。
結局、佐久間が帰国するまで団体のヘビー級タッグベルトをずっと保持してたから。
もっとも、ピンになってからのサマラは、別の意味で成長したけど」

 驚愕の表情を浮かべながらも、実況は自分の仕事を忘れない。

「驚きの新事実。マナさんが試合前にほのめかしたのは、こういう事だったんですねぇ!
同キャラ対決、実はかつてのパートナー同士の意地の張合いだったぁ。
二匹の毒蛇は互いの尻尾を咥えこみ、相手より先に消化しようとしている、正に
ウロボロスの紋章状態であります」

「くっ、しぶとい子ブタちゃんねっ!」

 半失神状態だと思っていたサマラが、未だハッキリとした意識を持って居た事に
佐久間は軽い驚きを覚えていた。がっちりと押えこんでる筈のサマラが、ロープに
向ってジワジワと動いている事で更に動揺する。サマラの自由な左手が精一杯の
力強さでマットを這い、組み付いた佐久間と共に、強引にロープに向って
転がる。

「おおおっ返す?」 「サマラァ!抜けてみろぉ!」

「オトせ」コール一色だった場内に、驚きとどよめきがはしり、ローリングするサマラを後押しした。

「ちぃっ!」

 佐久間は舌打ちしながら、力一杯締め付けを強める。一瞬動きが止まったサマラを
再びリング中央に転がり戻した。やはり駄目か、という諦めが入ったため息が
会場を包み込む。

「サマラ?ギブ?You Give−up?」

「NO・・・ノーだっ!」

だが、何かに目覚めたようなサマラは強烈な力強さを持って飽くなきロープへの執念を燃やす。

「おーーーっまだ行く!?」 「サマラッ・サマラッ・サマラッ!」

場内の歓声が再び高揚し、サマラを後押しするかのように、サマラコールが巻き起こった。

「レフリー、ろーぷ・・・ロー・・プ」

 根負けした佐久間を巻き込む様にして、遂にサマラの腕がサードロープに触れた。

「ロープッ、ブレイク、ブレイク」

レフリーの声が響き、二人を引き離す。サマラは自ら転がって、そのまま場外にエスケープした。
後を追うべく立ち上がろうとした佐久間は、動かない自分の体に驚く。自分がサマラを
押え込むのに、どれだけ消耗していたか、今更の様に思い知った。それは完全に極めた技を
返された、精神的な疲労と合間って、重く彼女に圧し掛かる。

「はっ無駄な足掻き…して…」

佐久間はへたり込んだ様にマットに座り、肩で息をしながら場外へ落ち延びた獲物を見やった。
 グラウンド地獄からようやく抜け出せたサマラも、冷たい場外マットに熱い汗の
海を作っていた。軽く咳き込みながらも、左腕のダメージが少ない事にホッとする。
全身を濃い靄の様に覆ったダメージは、隠しようも無く彼女の俊敏な動きを奪っていた。
が、チャンピオンとしての意地と、歓声と、何より相手の技を受け切ってブレイクに
持ち込めた事が、精神的な高揚をサマラにもたらしている。
 だが、マットを掴んで立ち上がった彼女の目に、鈍い光沢を放つ黒のリングシューズが
飛びこんできた。

「!?」

 呼吸を整えた佐久間が追撃をするべくロープをまたぐのと、リングに手をかけたサマラが
起き上がるのは、ほぼ同時だった。

「子ブタのクセに、歯向かってくれるじゃない!」
「―――A!」
予想より早いサマラの回復に、焦った佐久間はエプロンからスレッジハンマーを叩きこもうと飛ぶ。
サマラは自分のピンチを、瞬時に好機と判断した。

「To you!」

両手を組み合わせ、振り下ろしながら飛び込んでくる佐久間目掛けサマラは躊躇い無く
サイドステップし、その膝を突き上げた。

―――ズンッ!

「はぐっ!?」

 腹に響く鈍い音が会場にこだまする。体をずらしてスレッジハンマーをかわした
サマラの膝が、佐久間のボディに深々とめり込んでいた。落差の有るエプロンからの
攻撃は強烈なカウンターのニーリフトとなって、佐久間のボディを襲った。
 半瞬おいて佐久間の体が場外マットに崩れ落ちる。

「ひっ…あぐあぁぁぁぁぁっ!」

堪えきれない様にリングシューズがマットを叩き、下腹部をおさえたままのたうちまわった。
仕掛けたサマラもリングに体を預けながら、辛うじて立っている。

「Yes!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 ふらつくサマラが、気合を入れるように拳を振り上げると、場内が呼応して大きく盛上った。
うめく佐久間を引きずり起こすと、両手をサードロープに磔にする。

「お嬢ちゃん、小娘なりに頑張ったけど、大きなミスをしてるわ」

佐久間の耳元で、地獄の様に甘い囁きが響く。

「私の左腕を生かしておいたって事よっ!」

 言い終ると同時に、腰だめの体勢から捻りを加えたパンチが佐久間のボディに放たれた。

―――ぼぐんっ!

かはっ!

C:\My Documents\awwf\as004.jpg

 鈍い衝撃がサードロープを揺らす。パンチが突き刺さった瞬間、佐久間の左足が
出来の悪いマリオネットのように跳ね上がった。たなびく黒髪と共に、振り子の様に
頭部が大きく揺れる。反動でリングが軋むほど、その一撃は強烈だった。
 大きく開かれた佐久間の口から、胃液が糸を引いて飛ぶ。
飛び散った胃液と汗を左腕に受けたサマラが、めり込んだ拳をゆっくりと
引き戻すと、佐久間の体がずるずると沈んでいった。

「さっきのお返しよ。一発にまとめといたけどね」

 容赦無い強烈な一撃に、場内から驚愕の響きが上がる。
 サマラはふらつく足元を見せない様に、リングに体を預けながら佐久間を場内に戻し
自らも転がってリングインした。重々しく体を起こすと、左手を差し上げて場内に
アピールする。

「フィニーッシュ!OK?」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 確認を必要としないサマラの煽りに、場内の歓声はヒートアップした。
溜めを作って引き起こした佐久間の体を、ロープに飛ばす。ふらつく佐久間の体が
重くロープに跳ね返り、サマラへと吸い寄せられていく。
 ぶつかる瞬間、サマラの左手が獲物を仕留める蛇の様に閃いた。

 ガッ! ――ぎちぃっ!

「はうぅっ」

「出たーっコブラクローっ!過去に何人もの選手を失神KOへと導いた絞め技が
がっちり極まったぁっ。先程まで佐久間の一方的な展開だったのが、カウンターの
ニーリフトで一転、凄まじいボディパンチから遂に、リング中央でのコブラクローが
炸裂。サマラの必殺技が毒蛇対決の幕を引くべく、佐久間を追いこんでいくぅ!」

まくし立てる実況の声も、場内の高鳴りにかき消されていた。

 ―――ミシッミシ…!

「くぅ・・あっあくぅっ・・・」

カクン・・・どさっ。

 リング上、唸りを上げる佐久間の喉元にサマラの左手が食い込み、頚動脈を圧迫していく。
立つのもやっとだった佐久間は、耐えきれずに直ぐ膝を付いた。そのまま、ゆっくりと
仰向けに押え込まれて行く。佐久間の肩がマットに触れ、磔パンチで深いダメージを
受けている腹部に、サマラの豊満なヒップがどっしりと腰を下ろし、馬乗りになった。

「あーっと、佐久間、遂に完全に捕まってしまったぁ。猛毒コブラの牙が蝮の
頚動脈を貫き、獲物を仕留めるべく毒液を注入していくぅ!」

 首筋に食い込んだサマラの手を払い除けようと、力無く佐久間の両手が動く。

「苦しいでしょ、GIVE・UPして楽に成りたい?」

答える様に、佐久間の咳が小さく聞こえた。

「ケホッ・・」
「佐久間、ギブ?佐久間?」
「…くぅ…」
 レフリーの問い掛けを無視して、サマラの声が妖艶に響いた。

「でもね、私のコブラクローは、ギブアップを許さないの。一気に逝かせは
しないわよ。このままじわじわと天国の門をくぐって逝きなさい・・・」

 サマラの右手が左手首を掴み、ロックをより確実な物にする。佐久間の頚動脈に
掛けられた指が、鋭く、より深く食い込んで行った。

ミシッ…ミリミリミリミリッ…
ひゅーっひゅーっ…。 荒く、徐々に細くなる呼吸音。

抵抗していた佐久間の腕が、徐々に力を無くして行く。
彼女の赤味がかった顔は、しだいに土気色へ変わっていった。
先程までの、ふてぶてしい余裕に満ちた鋭い瞳は既に無い。
小さく開かれたルージュのひかれた唇は、喘ぐように動かされる度、しっとりと濡れ細り
一筋の、ルージュ混じりの唾液が口元に細い光を残す。
 一刻一刻、時を重ねる度、苦悶の表情は、恍惚とした安らかな寝顔へと近付いて行った。

「Welcome to Heaven!」

 サマラの形良い唇が凄惨な笑みを作り、小さく動く。

一瞬、タップするかのように形作られた佐久間の平手が小さく痙攣し、サマラの腕に
触れる事無く、じわじわとマットに崩れ落ちた。抵抗して蠢いていた足が
力無く投げ出される。

―――ぱたんっ…。

「佐久間、佐久間!?」

 異変に気付いたレフリーが、佐久間の頬を叩く。

「オチてる!オチてる!!」

反応が無い佐久間を見、慌ててゴングを要請した。

カンカンカンカンカンッ!!
 
 激しくゴングが乱打され、レフリーがサマラを引き離そうとする。
左手にしがみ付くレフリーを無視して、佐久間の首に食い込んだ手を
サマラはゆっくり引き上げると、そのまま放した。

―――どさっ…。

 引き起こされた佐久間の上半身は半瞬直立すると、再び力無くマットに沈みこむ。
佐久間は、サマラのコブラクローで完全に失神していた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ゴングと観客の歓声が轟く中、へたりこんでいた勝者の手がレフリーによって
掲げられようとする。疲労の色を見せない様、精一杯の虚勢を張って
素早く立ち上がったサマラの右手が大きく掲げられた。

「13分36秒っ 失神KOでバイパーサマラ選手の勝利です!」

 自分の入場テーマが流れる中、サマラは若手に介抱されている佐久間に
近寄る。多少混濁しているようだが、ようやく意識を取り戻したようだ。
サマラはきょとんとしている若手を押しのけ、佐久間の耳元にしゃがみ込むと
そっと呟いた。

「いつでもかかっておいで、バイパー。“本気で”ね」

 胸を張って、リングの中央に立つ彼女の金髪が、一際大きく揺らぐ。

「YAH!!!!」

―――どおおおおおおおおっ!

 観客にアピールすると、タイミングを計って再びかけられた入場テーマにのって
勝者は退場していく。威風堂々、チャンピオンとしての風格を全身で体現しながら
女帝はマットを去った。

 興奮覚めやらぬ実況が、半立ちの姿勢でまくしたてた。

「完全決着っ、マムシvsコブラの毒蛇対決は、コブラクローによる失神KOで
バンシー・サマラが完勝しました。しかし中盤、佐久間の猛攻が続き
アナコンダ・デスロックが決った時にはバイパー佐久間の勝利か?とも
思ったんですが、思わぬ落とし穴、泣くに泣けない場外での一撃に
逆転を許す結果と成ってしまいました。この一戦、どうみますマナさん?」

 半瞬、躊躇った後、解説はスーツの襟元を整えながら、静かに語り始めた。

「チャンピオンとしてベルトを維持しているか否か、それが一番大きな分かれ目。
単純な実力差なんて、殆ど無い。ただ、サマラは海千山千、猛者揃いの
アメリカンマットで、きっちりベルトを保持していたという事。ベルトを巻いている
間に培った、経験、駆け引き、えげつない攻め、最終的に防衛する為には
手段を選ばないつもりに成るだけの覚悟、が有る。彼女の場合、コブラクローを
出す前に勝負はついてる。その時点で最も有効な技で確実に相手を仕留めてから
万人が納得する必殺技でフィニッシュ、これ。サーキットで地方の実力者と戦い
客を納得させた上で防衛して勝つ為には、必須の技術。
今回だって、パワーボムを出し損ねた後は再びそれを狙う事無く、サブミッションの
切り返しを警戒して、途中で良く出すラリアートすらも出してない。
タイミングで出せた、自分が最も信頼できる打撃と絞めで勝負に出た」

実況が不審げな表情になる。

「ですが、佐久間も有る程度計算して組み立ててましたよ?意図的に相手の技を受け
攻め疲れを待った上で、一番得意なグラウンドで勝負に出た、結果的に・・・」

「グラウンドで勝負してても、相手の武器である腕を殺しに行ってない」

「あっ!?」

 実況の表情が、変わった。促す様に黙った実況を見つめながら、解説が続く。

「佐久間にとって最も警戒すべきで、最も狙い易いのはサマラの腕。でも、それを
集中して狙う事無く、あまつさえ完璧に極める事が出来たバイパークラッチを
わざと極めなかった。きちんと腕にダメージを与えた上で、アレが決っていれば
アナコンダ・デスロックでロープブレイクさせる事もなく、運が良ければギブさせたかも
しれないのに」

頷き、納得した実況の、ビデオの締め録が始まった。

 締めに気を取られている実況から視線を外した解説は、ほんの一瞬、目尻を下げ
呟く。

「結局、佐久間は自分が持てる最強の技総てを相手にぶつけて、それのみで
全米チャンピオンの牙城を崩し、勝利を掴もうとした。綺麗に勝とうと、し過ぎたのよ。
いや、納得できる勝ちが欲しかったのね・・・。佐久間もまだまだ、甘ちゃんなのよ」

 ふと、小さく可愛らしいその口元が緩んだ。


C:\My Documents\awwf\as008.jpg


「・・・そういうの、嫌いじゃないけど」

END


R・うぃっちぃ〜ずTOPへ あ、キャラ紹介読んどこうかな

シベリア超TOP


動画 アダルト動画 ライブチャット