試験運用的、第2の幕間劇

あ、漏れTOPに戻るわ R・うぃっちぃ〜ずTOPに戻る



 咲美達が使っているトレーニング場の玄関脇ベンチは、団体選手達の溜まり場だ。
日当たりが良すぎる所為で夏場は誰も寄り付かないが、初秋辺りから、爽やかに
吹き抜ける冷たい風と程良い日当たりが、心地良い空間を作り出す。

 「冷たぁ〜!」 「ひゃっ!」

 あっけらかんとした声と、舌足らずな甘い声。二つの歓声が上がる。
咲美と魅優、同団体の若手レスラー二人は、古ぼけたベンチの上に腰を下ろし
練習後の楽しみ、アイスを頬張っていた。汗だくのトレーニングウェアや
重く濡れたタオル、額を彩る玉の汗がハードな練習とスパーリングを物語る。

 「やっぱコレだよね〜」

 「うんっ」

 満面の笑みを浮べながら、咲美が大口で棒アイスをかじった。蹴り出すように
ぶらぶらさせている両足が、喜んで尻尾を振る子犬を連想させる。
横に座った魅優も、蕩けそうな表情でカップアイスを味わう。

 「咲美ちゃん、次の興行もシングル組まれると思う?」

バニラアイスを可愛らしく頬張り、魅優が問い掛けた。
咲美はシャリシャリと音を立ててソーダ味のアイスを噛み砕きながら、空を見上げる。

 「んー、殆どの試合がシングルじゃないかな…」
 「咲美ちゃんとは試合やり易いから、暫くそんなシリーズが続くといいなぁ」

 アイスの甘さとは別のとろけた表情で、魅優も高く晴れ渡った空を見上げた。
視界の隅に並木の黄み掛かった葉がまだらな木陰を作り、ぽっかり開いた
青い空の端を縁取る。差し込む日差しは真夏のぎらつきを微かに感じさせるものの
並木を吹き抜ける風の冷たさが、火照った肌に心地良い。
 ふと、我に返ったように溶け始めた棒アイスの下部分を舐め取りながら、咲美は
呆れたような表情で魅優を見返す。

 「やり易いのは試合じゃなくて、欲求不満解消でしょ〜」
 「そんな訳は…有るかもしれないけど、無いと思うし、仕事だし…」

 慇懃無礼なお嬢様言葉で高飛車に打って出る筈のリリス魅優でなく、普段のままの
相羽魅優として答える。うつむき加減で多少頬を赤らめたその顔とたどたどしい甘い声は
ヒールとして、リングに上がっている彼女とのギャップを感じさせた。
 食べるのが遅い所為か魅優のアイスは半ば溶け始めており、急いで口に運ぶのに熱心で
例の口調を持ち出す余裕が無かったらしい。同時に、ついさっきまで散々スパーリングを
行って、色々な意味で『満ち足りていた』という一面も有るのだろう。
 そんな魅優の仕草に、咲美は姉が可愛い妹を見守るような表情を浮べた。
魅優のアイスに一瞬気遣わしげな視線を送った後、咲美は、陽光を浴びてキラキラと
空色に輝く最後の幸せを口一杯に頬張った。
 一人食べ終わった咲美は、「当りもう一本!」の焼印が無かったアイスの棒に
「ちぇっ」と残念そうに舌打ちすると、手馴れた様子でゴミ箱に放り投げる。
魅優のカップと口とのせわしない往復もようやく終焉を迎えたようだ。

 「咲美、魅優!」

 覚えの有る声が響く。視線の先に声の主を見付け、咲美は手を振りながら立ち上がった。

 「サマラァ〜」
 「トレーニング?、二人ともお疲れ様」

 きっちりビジネススーツを着込んだバンシーサマラは、二人の様子を見、微笑んでいる。
何処かに出かけていたのか、指先に車のキーをぶら下げたままだ。右手には大き目の
黒い旅行カバンを持っている。

 「こんにちは」

 サマラの声に大慌てで最後のアイスをかき込んだらしい魅優が、咲美の横に立った。
サマラの後ろに目をやり、魅優と咲美は微妙に異なる色の目で、きょとんとした表情を浮べる。

 黒でまとめられた、洗練された着こなしのワンピース&スカート。
木漏れ日を受け輝く、ツインテール風にまとめた金色の髪。淡い青色を浮べた勝気な瞳と
絵の具の白色にほんの少しクリーム色を足したような綺麗な肌。そばかすの有る幼い顔。
愛らしく可愛らしいが、ツンとすました表情がそれを打ち消し、取っ付き難い何かを感じさせた。

 「紹介するわ、二人とも。この子はクレア・オルコット。次の興行から帯同して
 シリーズに参加するから」

 「参加って…」

 ハモった咲美と魅優に、サマラは当たり前のように付け足した。

 「レスラーとして、に決まってるでしょ」
 「はああああああ!?」

 新外国人選手を獲得すると漏れ聞いてはいたが、想像からかなり掛け離れていたらしい。
二人の様子を面白げに見やりながら、サマラは二人を紹介する。

 「クレア、この娘が山村咲美、ベビーのホープよ。で、こちらがさっき話したサブミッション
使いのヒール、相羽魅優。リリス魅優よ」

 日本語で紹介するサマラに、クレアは微妙に困惑した表情を見せた。
魅優はそれを見、慌てて喋り出す。

 「Hello My name is miyu Aib…」
 「知ってるわ」
 「!?」

 流暢な日本語がクレアの口から発せられたのに魅優は驚く。横では、同じ位流暢な魅優の英語
にまず驚き、更にクレアの日本語に驚かされた咲美がビックリした表情のまま、二人の顔を
キョロキョロ見まわしていた。サマラは、やや呆れた笑みを浮べている。

 「なんだ、日本語解るんです…」
 「Sorry, did it surprise?」

 舌足らずな魅優の日本語に、今度はキングスイングリッシュが被った。

 「Did it surprise?! Is it doing purposely?」
 「ワザとじゃないし、驚かせる積りも無いわ。…遊んでるだけよ」
 「遊ぶ…ですって!」

 魅優の表情が一瞬鋭さを増し、咲美の横から踏み出す。クレアもツンとした表情に冷たさを
乗せ、魅優の前に立ちはだかった。至近距離で睨み合う二人に、サマラはどこかノンビリした
口調で投げかける。

 「魅優、次のシリーズはクレアとシングルでやってもらうわよ」
 「…あら。そういう事ですの」

 魅優はクレアから視線を外さず答えた。身長差で見下されたような恰好のまま、いつもの
調子で毒突く。

 「スコットランド辺りの小娘が、遠路はるばる日本まで御苦労な事ですわね!」
 「なっ!?」

 クレアの澄ました表情に、微妙な動揺が走った。クリーム色の頬に、鮮やかな薄桃色が
 浮かんでいる。

 「あら、クレアの出身地知ってたの?」

 驚いた表情でサマラが魅優に聞いた。

 「知ってるも何も、独特の訛りは英語の発音を微妙に歪めるから、直ぐ判りますわよ。
 田舎者だってねっ」

 毒々しい笑みを浮べて言い放った魅優に、頬を染めたままのクレアは精一杯の冷静さを
保った風で答える。

 「ま、そんな事はどうでもいいわ。次のシリーズ、キャッチ アス・キャッチ キャンの
 真髄をイナカモノにみっちり仕込んであげるから、感謝なさい」
 「はるばるイギリスの片田舎からいらっしゃったんですもの。レベルが高い日本の
 プロレスリングを、たっぷり味わせて差し上げますわ。特に、キャッチなんかより
 進化したサブミッションをね」

 クレアの醒めた口調と、魅優の丁寧で嫌味タップリな口調が対極で響き合った。
互いに自分が信じるもの、信奉するスタイルを精一杯持ち上げて披瀝し
冷たく激しいやり取りが続く。ヒールで鍛えた魅優の、豊富な嫌味ボキャブラリーに
クレアは押され、表面上は変らないクールなクレアの表情に、魅優はどんどん焦れた。

 「ガキ!」

 表情は全く変らないまま、子供のような口調でクレアが言い放つ。何気に身長差を
気にしていたであろう魅優が、爪先立ちしながら噛み付く。

 「1mm前後背が高いからって、いい気になるんじゃありませんことよっ」
 「誰が背の話をしているの? 口の端にクリームの跡付けてるから、ガキって言っただけ」

 魅優は小さな口元を手で覆い、真っ赤になった。クレアが、見下した目でせせら笑う。

 「安心なさい、子供相手にシビアなレスリングはしないわ。ちゃんと手加減してあげる」
 「手加減…いいこと、リングの上で後悔しても知りませんわよ」
 「少しは手応え有ると良いけど。こんな辺境まで来た事を後悔させないでね」
 「徹底的に関節壊して差し上げますから、せいぜい訛った英語で泣いてギブなさい」
 「…口だけは一人前ねっ。本物のサブミッションを味わった事無いくせに」

 「はいはいはい、そこまで。ギャラリーも居ないのに、良い感じの前哨戦しない」

 軽く手を叩きながら、サマラが割って入る。有無を言わせぬサマラの表情に
魅優は不承不承、クレアは物言いたげだったが素直に従った。
二人とも“フンッ”と子供っぽい動作で相手から顔を背けると、それっきり
目を合せようともしない。サマラは苦笑いしながらクレアを促し、中途半端だった咲美への
挨拶をきちんと済ませた。団体の選手構成上ヒールが目立つ為、クレアはベビーとして
参戦する事に成るだろう。彼女の生活面等細かい点を咲美にフォローして欲しい、と申し添える。

 二人の舌戦を毒気が抜かれた表情で見守り、クレアのフォローをコクコク頷いて承諾した
咲美が、おずおずと手を上げた。

 「どうかした?咲美」

 サマラは小首を傾げた。

 「あのぉ〜、あたしの次シリーズ対戦相手は、誰?」

 咲美の微妙な表情を見やったサマラは、にっこりと微笑んだ。

 「私」

 「ええええええええええっ!?」

 サマラは驚いた咲美の頬を、両手の指でふにふに玩びながら答える。

 「安心なさい。ベビー相手に手を抜いたレスリングはしないわ。ちゃんと全力で
 叩き潰してあ・げ・る!」

誰かの口調を真似ながら、最後の“る!”に合せて弾くように咲美の頬から指を離した。
 微妙に不満げな咲美と、虚を付かれたような表情で見守る関節娘二人に、サマラは朗らかに
言い放った。

 「次のシリーズは面白く成りそうね!」

END


 あ、漏れTOPに戻るわ R・うぃっちぃ〜ずTOPに戻る


動画 アダルト動画 ライブチャット